neighborhood shops vol.1「九雲」

STORY

これまでSTORYでは、森に携わる方を中心にご紹介してきました。今回からは、ググっと品川の街にフォーカス。品川区内でこだわりの木製品等を販売している“neighborhood shops”をフカボリしてご紹介していきます。

第1弾は中延商店街に店舗を構え、「木ッカケ」のオリジナルプロダクトの販売も行っている、九雲の店主・小宮山 良さんにお話をお伺いしました。

「木ッカケ」オリジナルプロダクトに対するお客さまの反応や、お店のこだわり、中延商店街に店舗を構えた理由などをお伝えします。

説明をして販売をする料理道具屋「九雲」

── 九雲は「日本の食を家庭の味で伝えていく」をテーマに、オリジナルブランドの料理道具や、店主の小宮山さん自らセレクトした料理道具や調味料を販売するお店とのことですが、どういった経緯でお店を始めたのでしょうか?

合同会社九雲 代表執行社員 小宮山 良さん

小宮山:20歳くらいの頃に自転車屋で店長をしていたのですが、お客さんにモノを売るということがとても向いていたんですよね。当時20歳で若かったこともあり、自分のことを物売りの天才だと思うほどでした(笑)。それで、今は誰かが作った商品(自転車)を売っているけれど、生産現場も学べば「ものづくり〜販売までの一通りの知識を身につけられるのではないか」と考え、縁あってライヴグッズを作る会社に転職しました。

そこで10年くらいものづくりに携わり、企画・デザインから生産管理、納品してからのフィードバックというものづくりの一連の流れを経験し、自分の事業を起こすことにしました。

── ものづくりと一言に言ってもさまざまですが、なぜ料理道具に辿り着いたのでしょうか。

小宮山:子供の頃から料理が好きで、道具にこだわったりしていたんですよね。料理に限らず、自分が好きなジャンルに凝る男の人って多いんじゃないですか。だから僕も新しい商品が出たら一通り買って試していました。

色々な雑貨屋さんや専門店を巡っていて気づいたのですが、大抵の調理器具屋さんって商品の説明をあまりしてくれないんですよね。価格や新機能のアピールはするけど、使い方や他の道具とのメリット・デメリットなどの説明はしない。日々の食事を作る道具なのに、お客さんも説明をされなくてもOKな雰囲気があって不思議だなと。

周りの友人に今使っている調理器具をどこで買ったか聞いてみても、「結婚式の引き出物」とか「親や誰かが買って置いていった」とか。自分で選んで、使い方を理解して使っている人が少なかったんです。

そこで、「説明をして販売をする料理道具屋」を始めることにしました。

店内のキッチンを使い、調理器具のお試し利用も可能

ものづくりの経験を活かし、素材からこだわった自社製品

── 販売、そしてものづくりの経験を活かし、小宮山さんならではのこだわりを軸に九雲を立ち上げられたんですね。自社の料理道具は、どのような観点で作っているのでしょうか?

小宮山:自社ブランドのひとつとして、日本の竹を使った料理道具を販売しています。私は東京育ちで森や山に憧れがあって、日本中をバイクで旅していたのですが、ほとんどの地方の山に同じような木が植樹されていて、花柏(サワラ)や朴木(ホオノキ)、桜などが減っていっていることを聞いたり感じたりしていました。

自社ブランドを作る際に、「減少している木材を使うのはどうなんだろう?」と考え、日本を感じられる素材で、あまり使われていなくて、成長が早い材料として竹を選びました。

自社ブランドの竹のまな板

── 竹は通常、料理道具に使われない素材なのですね。

小宮山:カビるんですよね。当時、日本で唯一竹の集成材を扱っていた奈良の工房に話をしにいきましたが、「カビるからやめておいた方が良い」と言われました(笑)。

でも、やると決めたのでとりあえず竹材をもらってきて、自分で試してみました。とりあえず無垢のまま、まな板として使ってみたら案の定1週間でカビましたね(笑)。

それで、そのままでは使えないので口に入っても安全な自然由来の塗料を使うことにしました。柿渋やセラック(虫から抽出された塗料)などさまざまな塗料を試し、辿り着いたのが蜜蝋でした。

蜜蝋

── 試行錯誤しながら、商品を作っているんですね。木の製品は小宮山さん自らセレクトした商品だとお聞きしていますが、どのような基準でセレクトしているのでしょうか?

小宮山:「作り手と商品を信頼できるか」をテーマで選んでいます。あとは機能美ですね。いずれも自分が信頼する職人さんが作っているものを、自分で使ってみたうえで商品を選んでいます。

── 九雲では、前出「木ッカケ」オリジナルプロダクトであるスウェデッシュトーチも取り扱っていただいていますが、どのような方が購入されるのでしょうか?

木ッカケオリジナルプロダクト「スウェディッシュトーチ」

小宮山:キャンプ好きの方にプレゼントとして購入するお客さまが多いですね。九雲は料理道具屋ですが、町のセレクトショップのような要素もあるので、ギフトを選びにくる方も多いんです。

あと、キャンプに興味がある方が「トーチを使ってみたい」という理由で自分用に購入されることもあります。

4年間、都内の商店街をリサーチして辿り着いた、中延商店街

九雲、店内の様子

── 店舗を構える場所として、中延商店街を選んだ理由はありますか?

小宮山:九雲を始めたのは2014年で、最初は催事に出店したり、オンラインで販売を行っていました。当時、東京でオリンピックが開催されることが決定した頃で、漠然とオリンピックまでに東京で店舗を構えたいなと考えていました。

催事で出店するのも良いのですが、会場が外だと天候に左右されたり、百貨店だと手数料が発生したりして、後々ジリ貧になっていくだろうなと。

都内で店舗を構えるにあたり、東京都中小企業振興公社助成金「商店街起業助成事業」を活用しようと考え、さまざまな商店街をリサーチしました。街を歩いて客層を観察したり、短期間借りられる場所であれば、1日〜1週間ショップを開いてみたり。4年間、都内各地の商店街でリサーチを重ねた結果、平均的に客単価が高かったのが中延商店街だったんです。

── 4年もかけてされるとは、素晴らしい行動力ですね。都内には人通りが多い有名な商店街が多々ありますが、その中で中延商店街だったのですね。

小宮山:はい。時間をかけて検証したことで、一概に人通りが多ければいいわけではないことも分かりました。土日は人がすごくても、平日は閑散としているエリアもありましたし、人がたくさんいても九雲の客層と合っていない場所もありました。

── 最後に、これから力を入れていきたいことや今後の展望を教えてください。

小宮山:正直、店舗型の小売業自体はこれからの時代あまり求められていないと感じています。これからは様々な体験を売る時代なんじゃないかなと。体験プログラムを組んで、その結果商品を購入してもらうということを構想しています。

また、自分の体は自分が食べたもので作られるのに、食べることを若干疎かにしている方が多いなと感じています。

自分で選んだ料理道具で、自分で作った食事を自分自身や家族とすることで、色々見つめてもらえると嬉しいですね。


“自分の体は自分で食べたもので作られる”
とてもシンプルで大切なことなのに、忙しいを言い訳につい後回しにしてしまいがち。
食を中心にしたライフスタイルについて見つめ直すキッカケになるお店を皆さんもぜひ一度訪れてみてください。
お話し好きな店主さんがきっと大歓迎してくれるはずです。

九雲
定休日:水曜日
電話番号:03-6426-8481
URL:https://www.33qumo.com/
住所:東京都品川区東中延2-1-19